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開いたスペースとオーナー
「笑恵館」。その名の通り、笑顔が絶えない場所だった。
ここはオーナーの田名夢子さんが自宅を改装して開いた、会員制のコミュニティスペース。会員制といっても運営のための年会費500円を払えば、世代に関係なく誰でも参加できる。一人住まいの不安を抱える高齢者や、地域の人々とつながりをもちたい若者など、みんなが寄り合って気兼ねなく過ごせる場所をつくりたい。ここは、そんな田名さんの思いが詰まった空間だ。
「私を含め一人住まいの高齢者にとって、いざというときに頼れるのはめったに会わない身内よりも、気心の知れた近所の他人。高齢者だけでなく、シングルマザーなど地域の中で孤立しがちな人たちが集まって、ゆるやかなつながりの家族になる。そんな場所をつくりたいと思ったのがここを開いたきっかけです」
世田谷区砧にある100坪ほどの敷地内にウッドデッキ付きの趣ある母屋と、2階建ての共同住宅が並んでいる。母屋にはパン屋とふたつの多目的スペースが設けられ、1階では高齢者向け、2階ではママ向けのサロンが定期的に行われているそう。会員にはスペースの貸し出しも行っていて、教室やワークショップを開きたい人へ安価で提供している。
一方、共同住宅には30代の男女数名が暮らし、母屋を訪れる人々と交流を図る。まさに、世代を超えて多彩な顔ぶれが集まる「みんなの家」といった雰囲気。田名さんの願いどおり、単なる地域コミュニティの枠を超えた家族のような温もりが感じられる場所になっていた。
ちなみに田名さんの住居はというと、母屋2階部分のわずか6畳ほどの一間のみ。自宅の大部分を訪れる地域の皆さんに開放し、自らは最小限のスペースで暮らしている。
「二人の娘も家を出て、夫も単身赴任中。今は私一人ですから6畳のスペースがあれば十分なんですよ。たまに娘たちが家族を連れて帰ってきたときは多目的スペースに布団を敷いて寝てもらっています。実家に帰るたびにいろんな人がいるので、『家族が増えたみたいだ』って喜んでくれています」
この日も田名さんと同世代の仲間が10人ほど集まり、にぎやかに交流していた。田名さんいわく「シニアの女子会」。鏡とにらめっこしながらの「咀嚼(そしゃく)体操」など、デイケア的な要素を取り入れたり、みんなでランチをともにしながらワイワイ過ごす。田名さんを中心とした笑顔の輪が広がっていた。
こうした、気心の知れた仲間たちがそばにいてくれることは、実家に母をひとり残す田名さんの娘たちにとっても安心に違いない。
「私自身もそうですが、住み慣れた街で人生を全うしたいと考える人は少なくないはずです。最近では終末期における在宅ケアも推進されていますが、独居老人ではそれも難しい。そういった方でも高齢者施設などに入らず、最後まで地元で生き生きと暮らすためにも、もっともっとこうした場所が必要なのではないかと思っています。ここには共同住宅もありますから、頼る家族のいない高齢者の方も安心して暮らすことができます」
たとえ自分がこの先ここを離れることになっても、「みんなの家」として変わらず存続してほしい。田名さんはそう願っている。そのために協力者とともに協会を立ち上げ、将来的な権利関係の譲渡についても準備しているそうだ。
訪れる人の「笑顔」と「恵み」を生む「笑恵館」。これからも地域の宿り木として、長く愛される存在になっていきそうだ。
1階にはパン屋さんも入居。お昼時にはおいしそうな焼き立てパンが並び、近所の人でにぎわう。
そよ風が心地よいウッドデッキ。デッキの底をくり抜いた「掘りごたつ」もあり、憩いの場となっている。左は共同住宅。
庭の手入れも田名さん自身が行う。戦時中の防火水槽を使ったミニビオトープなど、美しい景観が広がる。
サロンのない日も多目的スペースでは多彩なイベントが開催。笑恵館会員に、安く貸し出している。
空いてるスペース
施主名 | 田名夢子さん |
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構想期間 | 10年 |
開いているスペースの面積 | 約100m2+庭 |
開いているスペースの% | 約80% |
住所 | 東京都世田谷区 |
ホームページ | http://shokeikan.com/ |
建物形態 | 一軒家+共同住宅 |
取材・文/榎並紀行<やじろべえ> 撮影/飯田照明 間取りイラスト/tokico
情報掲載日/2014年11月19日
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